「マネーボール」に学ぶ、弱者の勝ち方――最小の資金力で勝利をつかみ取るチーム作りの考え方

「マネーボール」に学ぶ、弱者の勝ち方――最小の資金力で勝利をつかみ取るチーム作りの考え方
嶋村吉洋
ワクセル
マネーボール
プロ野球
日本ハムファイターズ
新庄剛志
ブラッド・ピッド

(中山 宥(訳)、マイケル・ルイス(著):マネーボール〔完全版〕)

プロ野球は開幕から2か月が経過しました。
巨人では1年越しとなる田中将大選手の勝利、楽天では浅村選手の2000本安打達成など、今シーズンも話題が豊富です。

中でも注目は、2025年5月24日時点でパ・リーグ首位を走る北海道日本ハムファイターズ。
“スター監督”新庄剛志が率いるこのチームは、かつて「焼け野原」とまで評された状態からの再建4年目を迎え、多くの若手の台頭がチームの原動力となっています。

そんなファイターズの姿に、留学時代に読んだ一冊の本を思い出しました。
マイケル・ルイス著『マネーボール』です。

弱者の兵法としての「統計」――2000年代アスレチックスの挑戦

2000年代、メジャーリーグのオークランド・アスレチックスは、常に総年俸がリーグ最下位レベルに甘んじる弱小球団でした。
たとえば2000年のチーム総年俸はわずか約3,300万ドル(当時の日本円で約35億円)。これは現在の大谷翔平選手の年俸の3分の1にも満たない額です。
当然、有力選手を獲得できず、伝統的な手法では勝つことができない――そのような状況に直面していました。

そんな中でビリー・ビーンGMが導入したのが、従来の直感や経験則ではなく、「統計学」による合理的なチーム編成。
これが、今や野球界の主流となった「セイバーメトリクス」の原点であり、マネーボール戦略の核です。

統計的に「得点に貢献する選手」を分析し、徹底してデータで評価する。
一見すると地味な選手でも、出塁率などの“勝利に直結する指標”で価値を見出し、安価に獲得してチーム力を高めていきました。
勝つための「評価軸」を根本から再定義し、少ない資源で最大の効果を引き出したのです。

『マネーボール』から学ぶ5つの戦略思考

嶋村吉洋
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日本ハムファイターズ
新庄剛志
ブラッド・ピッド

1. 勘や印象に頼るな。すべては「数字」で語れ

伝統的な野球界では、スカウトの勘や選手の“見た目の良さ”で評価が決まりがちでした。
しかしアスレチックスは、「打率より出塁率」「盗塁より出塁機会の多さ」といった、勝利に直結する指標に着目。
これは、ビジネスにおいても「感覚よりもデータで判断せよ」という、データドリブン思考と重なります。

2. 市場の歪みを突け

高身長や俊足といった“スターっぽい要素”には市場の注目が集まり、過大評価されがちです。
アスレチックスはその逆を狙い、過小評価されていた出塁率の高い地味な選手を安価で獲得。
リソースの限られた企業や個人にとって、「他人が見逃している価値」を見出す力が武器になります。

3. 成果につながる“指標”を見極めよ

「ホームランが多い=良い選手」という先入観を捨て、「得点にどれだけ貢献できるか」に焦点を当てた指標――それが出塁率や長打率です。
これは、ビジネスにおけるKPI設定にも通じる話。
見栄えの良い数字ではなく、真に結果につながる指標を追う姿勢が重要です。

4. 限られた資源で勝つ設計力

アスレチックスは、他球団の半分以下の予算という現実を受け入れたうえで、勝つための方法を構築しました。
すべてを完璧にするのではなく、限られた資源で成果を最大化する「選択と集中」の戦略。
これはスタートアップや中小企業のマネジメントにもそのまま応用できます。

5. 常識を疑い、結果で語れ

アスレチックスの戦略は当初「野球を侮辱している」と批判されました。
しかし、結果は明確。低予算でも勝利を重ね、戦略の正しさを証明したのです。
どれほど非常識に見えても、成果を出せばそれが新しい常識になる――これは今の時代に求められる柔軟な発想と勇気を象徴しています。

数字は嘘をつかない。リアルと向き合う勇気を

嶋村吉洋
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マネーボール
プロ野球
日本ハムファイターズ
新庄剛志
ブラッド・ピッド

いかがでしたでしょうか。
『マネーボール』は、ブラッド・ピット主演で映画化もされているので、未読の方は映画から入っても良いかもしれません。

本書の本質は、「感覚を排して、現実の数字と徹底的に向き合う」こと。
これはスポーツに限らず、ビジネスや人生のあらゆる意思決定に通じる普遍的な哲学です。

見かけの派手さや立場、表面的な売上ではなく、本当に成果を生み出す要素は何か?
常にその問いを持ち、数値で裏打ちされた判断を積み重ねること。
アスレチックスの戦略は、その姿勢を私たちに教えてくれます。

仕事においても「リアルな数字」と向き合い、自分なりの“マネーボール”を実践してみてはいかがでしょうか。

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